「チョコレート」 井上英作

「チョコレート」

かつてのロック少年だった僕は、若い頃、音楽ばかり聞いていた。音楽そのものが、生活のすべてだといっても過言ではない。そんな僕もすっかり年をとったせいか、殆ど音楽を聞かなくなった。今では、仕事中に営業車で聞くラジオぐらいのものである。

先日、いつものように営業車に乗り、ラジオの電源をつけると、この曲が流れた。家入レオの「チョコレート」である。僕は、この曲を聞き終えると、近くのCDショップに駆け込み、すぐにこのCDを買った。

この曲は、家入レオが中学生の時に体験したバレンタイディーの思い出を綴ったものである。それ自体は、特に目新しくもなくむしろ陳腐なテーマだ。では、なぜこの曲がここまで、僕を魅了したのか?

調べてみるとこの曲は、家入レオが16才の時に製作したもので、その16才当時の声がボーカルテイクとして使用されているらしい。村上春樹によると恋をするのには、最良の年齢というのがあって、それは16才から21才ということだ。もし、そのことが本当だとしたら、まさに恋愛に適した16才の少女が体現した生の「声」がダイレクトに伝わるからではないだろうか?

さらに、この曲における家入の歌詞は、かつての「歌謡曲」を彷彿させるところが多い。
女性シンガーに男のことを「君」と言わせるあたり、往年の太田裕美(松本隆の世界観)を想起させる。またサビでは、臆面もなく「好きよ」と言いきってしまう。かつて「歌謡曲」では、歌詞の中で普通に「好き」という直接的な言葉が多く使われていたように思うが、「J POP」と呼ばれるようになってからは、なぜかこういう表現は、あまり使われなくなった。

圧巻なのは、ラストの部分。
「風に揺れた 赤いリボンが きらめいて 空の彼方 明日に消えた」

家入レオの16才の恋は、好きな男の子にチョコレートを渡すことさえできずに、終わってしまう。「片恋というものこそ常に恋の最高の姿である」といったのは、太宰治であるが、
家入は、そのことをよく分かっていながら、それでも「甘くて苦い」と、恋愛の重層性を
チョコレートを題材に平易な言葉で簡単に表現してしまう。

家入レオ、19才。凄い才能が現れた。今後の彼女に注目していきたい。