「GOMA」 井上英作

GOMA

ディジュリドゥという楽器がある。世界最古の管楽器と呼ばれているもので、オーストラリアの先住民・アボリジニが使用しているらしい。ディジュリドゥは、シロアリが真ん中部分を食べることにより空洞化したユーカリの木で出来ていて、長いものだと約2m弱といったところだろうか。そのチューブ状の木管から奏でられる音は、地鳴りのような、台風のときに吹いている風のような、そんな原始的な音である。

この楽器奏者で一躍有名になったのがGOMAである。僕は、彼の演奏を今から約20年ほど前、今は亡き「クラブ ダウン」で聞いた。大阪のダブバンド「SOUL FIRE」を見に行ったのだが、そこに彼はゲストで呼ばれていた。ダブトラックをバックに、呪術のような音を奏でるその姿は、ディジュリドゥという楽器のフォルムとも相まって、その夜、強く印象に残った。

それから、特に気にも止めていなかったのだが、彼が大きな交通事故に遭い脳に障害をもっているということは、何となく知っていた。不思議なもので、昨年、普段殆どテレビを見なくなった僕が、彼のドキュメント番組を見ることになった。見ることになったと書いたのは、僕は運命論者で、出会うべきもの、人には必ず出会えるというふうに普段から確信しているからである。

僕は、そのドキュメント番組を見て、ひどくショックを受けた。全く記憶をなくした彼は、事故から数カ月後に、今まで描いたとこともない絵を描き始める。その絵というのが、ドットで構成されたもので、そのことを契機に、少しずつではあるが、回復する様子をカメラは追っている。僕がショックを受けたのは、その絵を構成しているドット、つまり「円」と、ディジュリドゥという楽器の形状が「円」だということ、これらのことは単なる偶然などではなく、根っこのところで何かが繋がっているとういうふうに直感で感じたからだ。キーワードは、「循環=ループ」だと、そのとき強く確信した。

そして、このドキュメント番組を素材に、映画「フラッシュバック メモリーズ 3D」が完成し、作品は各方面で高い評価を受ける。東京でその映画をバックに生演奏をシンクロさせるという4Dライブが好評だったので、地元大阪でもライブを開催することが決まり、当然僕はそのライブを見に行くことにした。

バンド名は、GOMA&JUGLE RHYTHM SECTIONといい、その名のとおり、リズムは、殆ど暴力的といってもいいぐらいのもので、そのリズムをバックにGOMAはディジュリドゥを淡々と吹き続ける。そのGOMAの存在は、神々しくさえ見えた。彼は、ディジュリドゥを吹きながら手を天に向かってくねくねとさせ、それは何か目に見えない何かとずっと対話しているような感じがした。彼はそれを体内に受け入れ、ディジュリドゥを通して外に吐き出す。ループしているのである。ループというのは、根源的な生命のエネルギーそのもので、この「世界」の根源だといってもいいだろうと思う。そんな大きなもの前にした僕たちは、そんなループの中の一瞬の泡みたいなものかもしれない。

彼は、途中のMCでこう言った。
「今までの記憶はなくなってしまったが、それはそれでいいと思っている。僕には、未来があるから。」

岸田秀に言わせると、人間というのは、過去から逃れられない動物だそうだが、それが、
すなわち「生」だとすれば、GOMAは「生」と「死」の丁度真ん中あたりを浮遊していて、
僕たちに根源的な「生」を提示しているようにも思える。

10月、地元大阪で20周年記念ライブが行われる。また、見に行こうと思っている。