平均化訓練の講習会に行ってきました。  多田塾甲南合気会 松原弘和

平均化訓練の講習会に行ってきました。
多田塾甲南合気会 松原弘和

広さは三〇畳ほどだろうか。襖を取り外した和室二部屋にまたがる会場に、集った人達は凡そ40名。私が到着した頃には既に部屋の外周部が参加者の列で埋められ、座る場所を確保するのに些か戸惑う。
座が静まってほどなく、上下黒一色の細い男性が入ってきて、ホワイトボードを背にして座った。自己紹介と簡単な説明をした後、参加者一人一人にワークを施していく。男性の示した掌に自らの掌を重ねて全力を込めていく参加者達。その男性は向けられた力を難なく受け流し、受け手はそのひと毎の独特のポーズへと導かれていく……。

私がいるのは「平均化訓練」の講習会場。そしてこの黒ずくめの男性こそ本日の講師、野口晴胤先生。「野口整体」の創始者、野口晴哉氏のお孫さんである。今行われているのは、平均化訓練のワークの一つ「草書体」。百人百様の、まるでオブジェのような姿勢をとることで各人の弱い筋が明らかとなり、鍛えられるというのだ。
晴胤先生は参加者を一通り相手にしてから、再び着座し、平均化訓練のコンセプトとご自身の思いを語り始めた。私なりの理解による要約をここにまとめておく。(文責は勿論私にある。)

「何事においても具体的なトレーニングを重ねていくと、上達の早いひととそうでないひととの差がどうしても生まれてくる。上達の早いひとというのは繊細な身体感覚を持ち、人生の早い時期から無意識的にトライアンドエラーを繰り返して、筋が目的のために協同して働く身体をつくりあげてきたひとである。」

「ただそれを才能という言葉で片付けてしまうと、そこで話は終わってしまう。私は、弱く殆ど使われることのない筋を意識化して鍛えることで、様々な物事の上達が早まる可能性を考えている。何故ならば、全身の筋肉が無駄なく均等に働くようになるからだ。」

「私は元々、整体という治療術に携わっていたが、ひとそれぞれ身体の使い方に癖がある。そのため、何度身体に施術を行っても大抵同じような箇所で故障が再発してしまう。」

「スポーツトレーニングにおいても、どこの筋肉が働いているのかいないのか、自覚がないままに筋トレを行うと、筋の偏りが強化されてしまう。」

「偏りには色々なパターンがある。左右、前後、首、肩etc……。」

「身体を意識的に連携して使おうとしても、筋の強さに偏りがあると、強い筋で詰まりが生じ、筋肉のつながりが途切れて局所に由来する小さな力しか出せない。」

「会社に喩えると、働きすぎの社員を休ませようとしても、なかなか休んではくれない。
それよりもあまり働いていない社員に仕事をあたえることで、彼らもほどよく休息をとるようになる。」

「脳科学によると、人間は脳の2割しか使っていないという。この話を聞いたとき私は、筋肉もこれと同じではないかと思った。」

「体幹の筋に偏りがあれば、これに連なる四肢の筋にも偏りが生じる。近頃はトレーナーの間で体幹トレーニングが注目されているが、筋の緊張度を平均化するというところまで深めていけたらなお望ましい。」

「この平均化訓練の講習会に出た翌日は身体が軽くなった、運動の質が変わったというひとが多い。毎日走りこんでいても下半身に筋肉痛を覚えなかったひとが、数分のワークで翌日筋肉痛となったという。」

「精密なバランスの下で身体の中心軸が一瞬にして動く。武術家が古来より追求してきた理想の動きで、これには筋の平均化が前提となる。彼らは筋の平均化が実現されるような稽古を知らずしらずのうちに行っていた。」

「(筋の偏りは放っておくと元に戻ってしまうのか?という参加者の質問に答えて)戻ることはない。日々無自覚に行っていた運動が意識化されるので、自然と動きのパターンを変えたくなる。」

「平均化訓練に熟達すると、わざわざ訓練の時間をとらずとも日々の行住坐臥に溶け込ませることができるようになる。」

「平均化訓練は、まさにカスタムメイドの体操。」

私がこの講習会に参加したのは2回目。晴胤先生に出していただいたのは1回目と同じくうつ伏せになって右腕右脚をくの字に折り畳んだポーズ。左腕を伸ばしてみれば、あたかも「みちに倒れて誰かの名を呼び続けている」かのようだ……。

翌日から数日間、右脚に体重が乗るのを実感していた。脚の長さが違うせいだろうか、私は普段左脚に体重をかけがちなのだが、意識の与らないところでこのような変化が起きたことに身体メカニズムの精妙さ、複雑性を感じずにはいられなかった。

平均化訓練のワークの全貌、そして効果は如何ほどのものなのか?経験値と理解が浅く、うまくまとめることができない。

ただこの不可思議な体操が、合気道のお稽古、日常生活の諸々に対して何らかの波紋を及ぼしていきそうな予感がある。心身の変容への期待を記せないのが何とももどかしい限りだが、今後も講習会と独習で体験したことは随時まとめていくつもりだ。