「シネマ・ポートレイト」(井上 英作)

「シネマ・ポートレイト」

僕が7歳になったあるお正月のできごと。暇を持て余していた父がしびれを切らしたように、突然、映画を見に行くと言いだした。父は、そんなひとだった。当時、僕たち家族が住んでいたところから一番近くの街といえば、阪急伊丹駅周辺だった。いつものように、父と母と僕は阪急バスに乗り、「街」に出かけた。

僕たちはいつものバス停で降り、「街」の中心部に向かった。「街」は、新春の買い物客でにぎわっていた。その日は、冬にしては、少し暖かったように記憶している。

小さな角を曲がると、正面に大きな雑居ビルの端っこが見え、その細い道の電柱には、
女の裸だけしか写っていないと言っても過言ではない、ポルノ映画のポスターが貼られていた。当時、「街」の至るところには、長ドスを持った高倉健、ポルノ映画女優、にっこりほほ笑んでいる寅さんなど、映画のポスターが貼られていた。ばんばんの名曲「いちご白書をもう一度」の歌詞の一節にある「雨に破れかけた街かどのポスターに~」のとおりである。

その雑居ビルの入り口には、上映中の映画のポスターがたくさん貼られていた。
「寅さん」、「ドリフターズ」、そして「高倉健」。僕は、てっきり僕の「ドリフ」好きを知っていて、父は僕を映画に誘ったのだと思ったが、父は、そんな気の利く人ではなかった。僕は、「昭和残侠伝 破れ傘」、「女囚さそり 第41雑居房」という、およそ子供らしからぬ作品をみることになったのである。

昔、読んだ村上春樹のエッセイの中で映画についてこんなことが書かれていた。
「観た映画のストーリーは、覚えていないことが多いが、観た日の天気、観終わったあとに食べたもの、そういった記憶だけは鮮明に残っている。」

本当にそのとおりで、今から40年近くも前の出来事なのに、今でもその日のことを、僕は、はっきりと覚えている。

今年の正月に「ミュージック・ポートレイト」というお遊びをした。某テレビ番組の真似なのだが、なかなか評判がよかったので、来年は、その映画版をするとにした。

概略は、以下のとおりです
●日 時:1月3日 12時~
●場 所:我が家
●内 容:映画のDVDを一枚ご持参ください。その作品の中で、お薦めシーンを3分~5
分みんなで一緒に観ます。観終わった後、その作品に対する思いをお話して
いただきます。事前に観たいシーンの始まる時間は、覚えておいてくださ
い。

笑いあり、涙あり、おそらく、そんなことになるのではと、今から期待に胸をふくらませています。