「かっこいいとは何か その3~映画「SAVE THE DAY」公開に向けて」(@井上英作))

僕は、1977年にラジオでセックス・ピストルズの「マイ・ウエイ」を初めて聞いた。ショックだった。それ以来、僕はそのような音楽、「New Wave」周辺の音楽をずっと聴いてきた。そんな僕の音楽遍歴の到達点といえるのが、ミュートビートだった。1986年、21才のときである。しかし、バンドは、1989年に突然解散した。1989年といえば、ミュートビートが解散し、松田優作が亡くなるという、僕にとっては、ある意味節目の年で、僕のなかで、大きな何かが失われたような気がした。そんな空虚な感じのまま、時代は90年代に突入するわけだが、僕は、ミュートビートの幻影をずっと追い続けていた。

僕と同じようなことを感じていた人たちが、世の中にはたくさんいるようで、ミュートビートに影響を受けたミュージシャンが、この時期、たくさん輩出される。僕は、それらのバンドのライブを片っ端から、観てまわった。それは、そうするとことで、ミュートビートの「あの感じ」を再現したかったからだ。フイッシュマンズ(@神戸チキンジョージ、心斎橋クアトロ他)、リトルテンポ(@メトロ)、AUDIO ACTIVE(@ベイサイドジェニ-)、デタミネーションズ(@ダウン)。一方、海外に目を転じると、MASSIVE ATTACK(@IMPホール)、スミス&マイティ(@マザーホール)、ダディ・G(元MASSIVE ATTACK)(@メトロ)、神戸でフイッシュマンズを観たあと、京都まで移動し「メトロ」で観たマッド・プロフェッサー。当日来れなくなった友人のチケットを、勇気をふり絞って、いかにもその筋の人にしかみえないダフ屋のオッサンに、チケットを裁いた、アズワド(@IMPホール)など。書きながら気づいたのだが、これらの「ハコ」は、ほとんどが、すでに存在しない。僕の「クラブ」活動も、すでに過去の遺物だ。そんななか、「SILENT POETS」は、観たことがなかった。ユニット自体が、DJユニットなので、基本的にはライブをしない。その「SILENT POETS」が、25周年を記念した一夜限りのキャリア初のフルバンドライブが、渋谷「WWW」で行われた。サッカー日本代表がセネガルと対戦したあの日だ。僕は、年甲斐もなく、このライブを観に行くことにした。お金がなくライブの次の日が仕事ということもあって、「ぷらっとこだま」で行き、深夜バスで帰るという高校生のようなプランで東京弾丸ツアーを敢行した。

ライブの会場は、渋谷「WWW」という「ハコ」で、以前は、「シネマライズ」というミニシアターの先駆け的映画館として一世を風靡した。僕は、1988年、社会人になる直前の春に「汚れた血」(@レオス・カラックス)を観た。ノスタルジーに浸りながら、僕は相棒の幼馴染とライブ会場周辺を、ぶらぶらした。僕たちは、夜のミナミの街を、よくあてもなくぶらぶらしたものだ。何だか自分が20代に戻ったような気がした。

そして、ライブが始まった。一般的なバンド編成に、ストリングス3人、ホーン2人を加えた厚みのあるもので、メンバーの背後には、その演奏される曲をイメージした映像がスクリーンに写し出された。特に圧巻だったのは、「RAIN」が演奏されたときだった。ゲストにこだま和文(元ミュートビート)が登場し、いつものダークでメランコリックなこだまさんのトランペットが会場内に響き渡る。『こだまさんとのレコーディングの日、都内は大雨だった。トランペットを吹き終えたこだまさんが一服してこう言った。「曲名、RAINがいいんじゃないか?」1秒でRAINに決めた。』と「SILENT POETS」ご本人がツイートしているように、この曲は、雨の曲で、スクリーンに映し出される映像も、もちろん雨の映像だった。言葉にしてしまうと、なんとも陳腐な感じがするが、とにかくかっこよかった。『なんともいいようがないんだけど、「めちゃくちゃかっこいい」としかいいようがない。』(「東京大学「80年代地下文化論」講義」 P71@百夜書房、宮沢章夫)のである。

ライブを十分に堪能し、僕は、「SILENT POETS」のかっこよさについて、思いをめぐらせていた。僕はこれまで「かっこよさ」について考察を続けてきたが、新しいファクターを発見することができた。そのヒントは、最新アルバム「DAWN」に収録されている「Non Stoppa」という曲に隠されていた。この曲で、繰り返されるパーカッションの音、これはミュートビートの名曲「アフターザレイン」からサンプリングしたものだ。そしてこの曲を作曲したのが、2016年に亡くなった朝本浩文である。「SILENT POETS」は、ミュートビート、そして朝本浩文へのリスペクトから、このパーカッションの音を採用したのだろう。それは、取りも直さず、すでに存在しないもの(ミュートビート)、あるいは死者(朝本浩文)への深い畏敬の念によるものだと思う。そういえば、僕の好きなアーティスト、こだま和文、高橋幸宏、Bryan Ferryは、過去の名曲をよくカバーしているという共通点に、僕ははたと気づいた。彼らは、とにかくかっこいい。そのかっこよさを担保しているのは、すでにこの世に存在しないものあるいは死者への深い愛情なんだろうと思うのである。

あの奇跡的な夜の余韻も冷めやらぬうちに、あの日のライブが映画化されること、映画化に向けてクラウドファンディングを立ち上げたことを、僕は知る。僕は、なんの迷いもなく、そのクラウドファンディングに参加した。その甲斐もあったのか、映画「SAVE THE DAY」として、映画化が実現することになった。大阪では、1月26日~2月1日、シネマート心斎橋で上映される。https://films.spaceshower.jp/savetheday/

 

 

 

 

 

 

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