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(哭声/コクソン 2017年11月1日 井上 英作)

 映画「哭声」を観た。映画「哭声/コクソン」は、「チェイサー」を監督したナ・ホンジン監督の最新作である。「チェイサー」は、レオナルド・ディカプリオが、ハリウッドでのリメイク権を獲得したほどの大作で、韓国映画の、ひとつの頂点といえるかもしれない作品だといっても過言ではないだろう。そして、「哭声」を有名にしたのが、なんといっても、國村隼の存在である。彼は、外国人(日本人!)として初めて韓国のアカデミー賞と言われている青龍映画賞で賞を得たのである。

 「哭声」は、「変な」映画である。「チェイサー」も実に変な映画で、全編、ほとんど真っ暗で、まるで、闇を見続けたような印象が強い。さて、こういった「変な」映画の解説は、僕が最も尊敬する映画評論家、町山智浩の手を借りられずにはいられない。町山智浩は、自身が運営するインターネットサイト「映画その他ムダ話」で独自の映画評論活動を行っている。その評論対象となっている作品は、邦画、洋画、時代を問わず、娯楽作品から芸術作品まで、非常に多岐にわたっていて、しかも、一回216円ととても安価で、くだらないテレビを見るより大変「役に立つ」、僕にとっては、間違いなく新しいメディアである。

 さて、映画「哭声」の話である。僕は、この作品を「変な映画」だといった。では、その「変さ」は、何によるものなのか?それは、その「ごった煮」感にあるのではないだろうか?、というのが僕の仮説である。この作品は、過去の名作ホラー映画に対するオマージュなのか、映画的記号が、ちゃんこ鍋の具材のように、ひとつの入れ物の中に詰め込まれている。人里離れた寒村で、次々と起こる謎の連続殺人事件は、横溝正史を想起させ、突然、変異する主人公の娘は、「エクソシスト」そのものだ。そして、祈祷(悪魔祓い)を行うファン・ジョンミンは、「エクソシスト」の神父に他ならない。では、この作品は、ナ・ホンジン監督の映画に対する偏愛を寄り集めただけの、ホラー映画なのか?僕は、それは、違うと思う。なぜなら、この作品は、韓国国内で観客動員700万人に迫る大ヒットとなっているからである。単なる映画への偏愛というだけでは、これだけ大衆に受け入れられる理由は説明がつかず、もっと他のところに原因があると考える方が、理にかなっているのではないだろうか。なにより、「かみ合わないたくさんのパズルのピース」(@町山智浩)により、観客を不安定にさせていく話の展開は、ナ・ホンジン監督の醍醐味だとはいえ、こんなにわけのわからない映画を、大衆が支持する理由が、僕には、どうしても理解できなかった。

 ナ・ホンジン監督へのインタビュー(@映画その他ムダ話)によると、この映画のテーマは、「神の不在」だそうだ。クリスチャンである彼にとって、この世界の不条理は、どうもキリスト教的思考では、整理がつかないらしい。だから、國村隼の存在が、最後まで確定しないまま、観客は置き去りにされ、映画は終わってしまう。そのことが、インタビューで、ナ・ホンジン監督が答えているように、「神の不在」という問題を提起しているなら、そのように思える。しかし、あえて僕は、別の解釈をこの映画に与えたいと思う。

 前回の投稿「Kホラー」において、内田センセからは、韓国ホラー映画が同じ話型に留まり続けているのは、韓国のなかで、いまだに過去を抑圧してしまったことが、昇華しきれていないのでは?というご意見をいただいたと書いた。しかし、1998年の「女高怪談」から始まった「Kホラー」は、約20年の時を経て、ようやく、昇華を始める入口に立ったのだろうと思う。そのためには、そう、定型的な物語から脱出するためには、過去の映画的記憶を引用することが必要で、その結果、映画「哭声」は、「ごった煮」感を醸成させたのだと思う。そして、その「ごった煮」感、つまり、過去への抑圧を昇華させようという運動が、韓国の多くの大衆に受け入れられたのだろうと、僕は想像する。韓国内における「移行期的混乱」(@平川克己)が、始まったのである。

 なぜ、村上春樹の本が世界性を獲得できるのか、ハルキストの僕にも、よくわからなかった。例えば、「「騎士団長殺し」ってどんな話?」と人に聞かれて、「騎士団長殺し」を読んでみたくなる答えを用意することができるだろうか?僕には、到底自信がない。しかし、僕は、この一連の「Kホラー」を観ていくことで、ひとつの答えらしきものの尻尾が少し見えてきたような気がする。文学なり映画は、ストーリーからどんどん離れていくことにより、記号に満ち溢れた物語になることで、初めて、その物語は、世界性、普遍性を獲得するのだろう。それは、「世界」とつながる最短の方法かもしれない。僕は、そんな風に考える。だから僕は、村上春樹の本を読み、デビッド・リンチの映画を見続けるのである。

 今後の、「Kホラー」に注目していきたい。

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